春来たる君の軌跡

統合失調症を発症するも回復し、日々前向きを目指しているお兄さんです。

恋と人格崩壊

僕の好きだったその店もある日突然閉店した。いつも通り飲み友達と開店と同時に入店しようとしたがシャッターが開かなかった。何人かの女の子の連絡先を知っていたのでメールしてみたら、女の子も今日急に閉店を知らされたとのことだった。学生時代に女友達がいなかった僕にとってこの店の女の子達はみんな優しく仲良くしてくれたので、遅く来た青春時代のような時間の終わりがとても寂しかった。 

女の子達はそれぞれ別の道に行ったが、何人かの女の子は同じ街で別の店に移ってホステスをした。当時僕に繫華街を歩くと名前を呼んで声をかけてくれる女の子がたくさん居て色々な店に知り合いがいてこの街が大好きだった。その中で一人の女の子に夢中になってしまう。 

恋というものは不思議なものでなぜこの子にだけ特別な気持ちを持ったのか、その出会いが運命だったのかとも思える心の置き場がそこにあった。 

その女の子と結ばれたかというとそんな関係は一度もなかった。気の強い子で声はハスキーで面白いノリだけど色気がある女の子だった。お酒の値段も気にしないで美味しいウイスキーを時間の許す限り飲んでいた。彼女が歌ってよと僕に頼んだ曲を酔いに任せて下手くそだけど歌うと聞いてくれた。ラストまで居ることが増えてきてアフターでホストクラブに一緒に行ったこともあった。初めてホストクラブに入ったがその子は行き慣れているしホストは知り合いばかりのようだったが、僕のことを自慢のお客さんのようにしてくれて、ホストは僕のことを羨ましく見ているように思えた。ホストを出て女の子がタクシーを止めた。僕を乗せようとしていつもありがとうとキスをしてくれた。いきなり感じた唇の柔らかい感触は忘れることのできない体験になった。 

彼女と喧嘩したこともあった。その日は僕も酔っ払い道でその子の腕を掴んで連れて行って楽しもうとした。その子は繫華街の中心で自分の名前を叫んでいた。なんの意味があって叫んでいたのかは分からないが苦しそうだった。僕も強引すぎたのか気が付くとその子の知り合いが車で助けにきていた。お前は誰なんだよと怒鳴ったと思う。ほんとに友達か?苗字知ってんのかと聞いたら答えてきた。ああ、そうか。いいよ連れて帰れよと引き渡した。帰り道女の子から電話がかかってきて、ごめんね。と言われ僕の恋心はそのまま残ったままだった。 

このあたりですでに僕は正気ではなかったようだ。睡眠時間もほとんどなく眠れない日々が続いていた。 

父親に会社に電話して退職するようにと言われた。電話して僕は統合失調症という診断がついているのでとそのまま話した。会社は遠い場所にあるので会社の方からパチンコ屋の駐車場に仕事にきている同僚に制服を渡してもらうように頼みに父の運転で行ってきて退職に至った。 

 

恋していた女の子から聞いたのだが日中に何回も何回も電話していたらしい。女の子は睡眠の為にサイレントにしていたと聞いた。女の子からも日中に電話がきていい加減にしてと言われたこともあったが僕は理解できていない状態だった。 

 

両親が僕の部屋にきてパパっと部屋を片付けてくれたことがある。その時の心境は部屋が中継で映るので綺麗な方がいいのではという意味で片付けてくれたと思っていた。父が急に昔の映画のビデオをたくさん買ってきたりタバコを買ってきたりしてくれた。普段の様子も見ている人たちがいてそれが収入に繋がっているのだから好きなようにして過ごすのが仕事だと思った。晩御飯もあまり食べなくなっていた。漬物を母が美味しくないだろうと聞いてきたのに対してなにか意図的に料理も作られていると思い始めた。ダイニングで食事している様子もリビングでの様子もそのどちらもタレントが見ていて面白がっている。自室に行ってもその続きをテレビのタレントは見ている。夜でも朝でも常に監視されていると思っていた。 

 

両親に監視されているのかどうか聞いてはいけないというのが暗黙のルールのように思っていたので確認できないのがストレスだった。夜の街に出ると少しそのことを忘れて楽しめる時間だった。オープンからラストまで三日連続で楽しんだ。三日目は朝方に帰って来たのだが家に帰らずに一人でホテルに入った。広いベッドに寝転んでテレビをつけるとまた妄想が始まった。24時間監視されていたし僕が楽しんでいたのを見て芸能人も楽しんでいる。全く疲れていないし酔いも覚めている。眠らなくてもいい体を僕は手に入れたとさえ思った。お風呂に入ってさっぱりしたし活動しようと決めた。そのホテルはオートロックではなく自由に扉を開けれるホテルだった。2、3時間ほど外出して戻ればいいだろうと思い外に出かけた。古着ショップをみたり好きなラーメン屋に行ったりした。すると実家から携帯に電話が入った。祖父だった。初めて祖父と電話で話したがよく理解できない電話だった。ホテルがどうとか言っていたのでホテルに戻らなくてはいけないのだと思った。ホテルに戻ると部屋の電話が鳴り出るとそのまま帰って下さいと言われた。家に帰ると祖父から警察がきたと聞いた。無銭宿泊となった。今ではわかるが当時は深刻に考えず夕方になり4日連続目のオープンラストをしようとしたところ父が来てお前は今大変な状態だと言われ、しかし僕はそんなことない!遊びに行く!と押し問答となった。結果父の必死な姿に納得して病院へ向かうことになった。この日からしばらく家には帰れなくなり闘病が始まる。